尾崎名津子さん(文学研究者)
文学研究者
尾崎名津子
横浜市出身。横浜学園附属元町幼稚園、第31回卒業生。立教大学文学部准教授。
専門は日本近現代文学。主な著書に『織田作之助論 〈大阪〉表象という戦略』(和泉書院、2016年)、『織田作之助女性小説セレクション 怖るべき女』(春陽堂書店、2019年)、『「言論統制」の近代を問いなおす 検閲が文学と出版にもたらしたもの』(共編著、花鳥社、2019年)がある。
元町幼稚園へのメッセージ
年長さんの頃、おままごとで決まった役割(「おかあさん」とか「こども」とか「犬」とか)を演じることに少し飽きてしまった私は、一人あそびに熱中していました。内心「先生に、みんなで一緒に遊びなさいと言われたらどうしよう」と思いながら。しかし、先生方は私にそのような事を言わず、ずっと見守ってくださっていました。
1ヶ月ほど経つと、誰かと少しは関わっていたいと思い直し、一人でパン屋を開店しました。そして、おままごとをしている女の子たちや、ビックリマンごっこをしている男の子たちにパンを売りました(半ば「押し売り」だったかもしれません)。パンが売れなくなれば翌日には自動車販売に鞍替えし、その翌日にはケーキ屋に――。
こうしてあっという間に卒園してしまったのですが、自営業を営んだ日々は、今日の私を明らかに形作っています。元町幼稚園は、人と同じことをしなくても、良い意味でそっとしておいてもらえる、そんな場所でした。一人でいても大丈夫、見守ってくださる方が必ずいるという大きな安心をもらいました。
私の研究対象は、文学史では決して大きく取り上げられない作家の作品や、明治時代から占領期までの日本にあった言論統制です。研究業界において「王道」とは言えないでしょう。その研究に意義があると信じ続けられたのは、先生方からいただいた「人と同じでなくてもいいよ」という承認が、私の支えとしてあったからだと思います。
相手を見守るということは自分を不安にさせ、それに耐えることは意外に難しい、と、日々学生と接していて思います。小さな子が相手であればなおさらだと思います。心配で、ついあれこれと手を差し伸べたくなってしまうのが大人なのかもしれません。ですが、相手を信じて、時にはそっと遠くから見てあげることが、子どもの成長につながるような気がします。そんな大人の視線を、子どもは言わずとも感じ取っています。このことが、大人や世界への信頼を育てます。元町幼稚園は、そうした教育を実践している場所だと思っています。